大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和30年(ツ)12号 判決

上告人 原告・控訴人 稲田喜市郎

被上告人 被告・被控訴人 京都府 代表者知事 蜷川虎三

主文

原判決を破毀する。

本件を京都地方裁判所に差し戻す。

理由

論旨は末尾添付の上告理由書の通りである。

按ずるに、原審は上告人主張の損害賠償債権の発生原因はともあれ、上告人主張に係る右債権の譲渡について、原債権者たる亡伊藤きみから、債務者たる被上告人に対する債権譲渡の通知が、上告の主張自体からして、なかつたものと認むるの外なく、また、被上告人において、右譲渡を承認した事実も、原審口頭弁論の全趣旨からして、なかつたものと認定すべきであるとし、従つて右債権譲渡が仮りにあつたとしても、上告人は被上告人に対抗し得べきでないと、断定したものであることは、原判文上明かである。

思うに、債権の譲渡人は譲受人に対し、債務者に対する譲渡通知を為すべき義務あるものであつて、譲渡人について相続の開始があつた場合相続人が、其の義務を承継負担すべきは言を俟たない、従つて、本件のような場合に、原債権者たる亡伊藤きみに、相続人があつたとすれば、相続人は前示譲渡通知の義務を承継したる筈であり、従つて相続人は、其の義務を履行すべく、被上告人に対し債権譲渡の事実を通知し居るやも計られない、又、その通知が本件提起後に為されたからと云つて、其の効力に消長あるべき筈のものでもない、従つて原審認定のように亡伊藤きみより譲渡通知がなかつたという一事だけでは直ちに上告人主張の債権譲渡が被上告人に対抗出来ないものとは到底速断し得ない所である、原審としては、須く思をその点に運らして、亡伊藤きみに相続人がなかつたか否か、又その相続人が被上告人に対し債権譲渡の通知をしていなかつたか、どうかという点にまで、釈明権を行使して上告人の陳述を聴くべきではなかつたかと考える、況して一件記録を査閲するに上告人原審提出の書証よりして、亡伊藤きみには相続人のあつたことを認め得られないわけでは、ないにおいておやである、のみならず、右書証によれば、その相続人と認定し得らるる如き人物と、上告人との間に本件損害賠償債権について、譲渡契約を締結した形跡が認められないでもない、もし然りとすれば、上告人主張の債権はその主張のような推移によらないで亡伊藤きみより相続人たる人物に移転し更に上告人に移転し而もその相続人たる人物は上告人の為め債権譲渡通知の手続を完了し居るやも計られない、従つて原判示のように債権譲渡の対抗要件の有無に判断の重点をおいた原審としては、須くその点にも思を致して釈明権を行使すべきではなかつたかと考えるのである、これを要するに原審は上告人が亡伊藤きみから、被上告人に対する債権譲渡の通知がなかつたという上告人の陳述にのみ拘泥して当然尽すべき釈明権の行使を怠り審理不尽に陥つた憾あるを免れない、本件上告理由は、結局理由あるに帰す、よつて当審は原審をして更に叙上の点について審理を尽さすべく原判決は之を取消すを相当と認め民事訴訟法第四百七条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 藤田彌太郎 裁判官 小野田常太郎)

上告理由

控訴判決ハ事実ニ齟齬シタ判決デアリマスカラ上告致シマス

其(一)控訴判決ハ指名債権ノ譲渡デアルト云ツテ民法第四百六十七条ヲ適用シタ判決デアリマスガ控訴判決ニハ損害賠償請求訴訟ト明記シテアリマス亦事実指名債権ノ譲渡ヲ主張スルナラ其被指名者ヲ明記シテナクテハ信ジラレマセン亦指名債権ト呼称スル債権ハ借用証書手形小切手等ノ類デナイデショーカ

其(二)控訴判決ニ被上告人ハ種々主張シタ様ニ書テアリマスガ亦答弁書ヲ見マスルト聖徳教会所ノ廃止届ガ違法デナイトノミニテ終始シ他ニ何モ云ツテ居リマセン亦上告人モ指名債権云々ハ毫モ申立テ居リマセン故ニ控訴判決ハ民訴法第百八十六条ニ裁判官ハ当事者ノ申立テザル事項ニ付判決ヲナス事ヲ得ストノ法律ニ違反シタ判決デアリマスカラ御取消ヲ願ヒマス

其(三)控訴判決ハ被控訴ニ於テ曰ク伊藤きみガ損害請求権ヲ有スルトスルモ控訴人ニ譲渡シタ事実ヲ否認スルト云ツタト書シテアルガ此ノ譲渡ハ物々交換ニ依テノ譲渡デアルカラ伊藤きみ請求権ハ控訴人ニモ存在シテ居リマス亦伊藤きみノ遺言ニ依リ其相続人伊藤たか子同のり子等ガ伊藤きみノ所有スル不動産其他モ控訴人ニ譲渡シ居ル事実ハ甲第十号乃至十三号乃至十五号証ニ提出シテアリマス亦原審控訴答弁ニモ被控訴人ガ譲渡ニ付不認ノ申立ハアリマセン答弁書ヲ以テ証拠ト致シマス

其(四)控訴判決ハ本件ノ主眼デアル強盗坊主訴外大野黙堂ガ平田峻道ヲ沢田峻道ト偽リ印鑑文書偽造行使ニ依リ大正十三年伊藤典隆ガ自己所有ノ建物土地ヲ教会ヘ使用貸借ノ条件ニテ設立許可ヲ受ケタル聖徳教会所ノ廃止届ヲナシ被上告人府知事ハ之ヲ調査セス廃止届ノ事タカラ之ヲ宜カロト云ツテ受理シタト大野黙堂ガ宣誓シタ証言ヲ故意ニ脱漏シテ強盗坊主ト之ヲ補助シタ知事ノ為ニ都合ノ良ヒ判決デアリマス大野黙堂ハ昭和九年ニ聖徳教会所ノ雇僧トシテ法務ヲ依頼シマシタガ教会ノ建物ガ土地ト共ニ昭和六年死去シ伊藤典隆ノ所有ニナツテイテモ無登記無税デョカツタ昭和十五年前ノ時代ヲ奇貨トシ前記建物ヲ改修ヲナシ其落式ノ当日昭和十年七月二八日舞鶴市設処ニ至リ修築建物ノ取得届ヲナシ同時ニ府税家屋税ヲ納メ其納税ノ証明ヲ以テ昭和十三年自己ノ所有ニ保存登記ヲナシ昭和十四年十一月伊藤きみハ中舞鶴浄土宗教会所ノ建物ヲ占居シ明渡請求ニ応セス布教ニ支障アルトノ理由デ明渡シ訴訟ヲ舞裁ヘ提出シタカ大野黙堂ニハ所有権モ管理権モナイト云フ判決デアリマシタガ京都裁判所ノ控訴判決ハ之ニ反シテ中舞鶴浄土宗教会所ノ信徒総代カラ贈与ニ依リ保存登記ヲシタ事カ肯認出来ルトノ理由デ敗訴シ上告判決モ控訴判決ヲ支持シ遂ニ昭和十八年五月伊藤きみハ兵庫県和田山町ニ退去シマシタ上告人ハ伊藤典隆ト物々交換ヲシタ建物デアルカラ訴訟費用ヲ支弁シテ居リマシタ関係カラ大審院判決ニ承服出来ズ昭和二二年六月舞鶴軍政部ニ至リ不服ノ点ヲ査定シテ貰ヒマシタガ同部デハ日本ノ大審院判決ハ信ジラレタカ実地検証ニ実在セザル建物ノ明渡シヲ許容シテ居ル而テ大野黙堂ハ誤判ヲ目的トシタ判決ノ恐威ヲ以テ明渡シ強制執行シタ者デ日本刑法ノ強盗デアル故ニ民刑共ニ最終迄争ヘ然ル後不当ノ判決ハ当 ニ於テ更正決定ヲシテアルトノ宣言デアリマシタ亦昭和二五年 月中舞鶴浄土宗教会所ノ信徒総代松山一雄池内徳次郎永井大蔵ニ対シ中舞鶴浄土宗教会所ノ信徒ノ寄附金募集ノ許可書並ニ同教会ノ建築許可書ヲ求メマシタガ舞鶴裁判所ハ斯ル書類ノアルベキ筈ナク法廷ニ於テ提出シ得ナカツタ証明証ヲ上告人ニ附下シテ居リマス舞鶴検察庁モ村上、西垣両検事カ大野黙堂外三名ヲ強盗罪ト認定シタ処分ガアリマス証拠トシテ提出シマス而シテ最高裁判所ノ判事延ベ十三名大審院大高裁ノ判事十四名京地舞地判事約四十名ガ強盗ニ勝訴ノ判決ヲシテ居リマス上告人ハ去三月二九日最高裁判所長ヘ対シ更正決定ノ申立ヲシマシタカ受理セラレマシタ故ニ証拠トシテ郵便局ノ送達受取ヲ証拠トシテ提出シマス故ニ被上告人ガ伊藤きみノ譲渡ノ点ヲ否認シ判決ノ如何ヲ以テ賠償ノ責任ヲ免レントシテ工作シテモ知事ハ警察権ト犯罪捜査権ヲ掌握シナガラ強盗補助ヲナシ其検挙ヲ怠リ被害者ニ損害ヲ与ヘタ事実ト責任ハ免レマセヌ亦印鑑文書偽造行使ヲ有効トシ是認シタナレバ府税滞納者ガ公然ト印鑑文書偽造ヲ行使シテモ不定処罰ガ出来マスカ此点ニ附テ府民ヲ背影トシ判決ノ如何ハ最早問題トセズ一般府民ノ審判ガ必要ト存シマス

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例